椿 Ⅳ 無鄰菴(むりんあん)★★☆

2014.05.02

小川治兵衛という作庭家(庭師)がいます。
明治になってあらゆる分野で近代化が押し進められるが、
この小川治兵衛は造園の分野でそのような働きをした偉大な改革者。
日本画で言えば竹内栖鳳のような人と言っていいかもしれない。

彼は多くの仕事をし、明治の日本の指導者たちの屋敷の庭も多くを手がけた。
しかし個人の家の庭はそのほとんどを見ることができないが、
京都南禅寺の近無鄰菴という屋敷は公開されていて見ることができる。
明治の元勲、山形有朋の京都の別邸の庭。
この無鄰菴の鄰という字、隣の字を左右反対に入れ替えた変な字。
調べてみたら隣も鄰も同じ意味のようだが、
字の格好はさて置いて、無鄰菴は一街区そっくり使っているから、
確かに隣(となり)はない。
さすが明治の元勲。
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江戸後期の因習的で、何か意味ありげに見せる象徴性の庭に比べると無鄰菴の庭はずっと自然。
水のせせらぎ、木々のささやき、春の新緑、秋の紅葉木々。
五感で感じる庭である。
でも今の私たちから見ると、自然と言ってもまだまだ何かに囚われているように見える。
小川治兵衛の庭って、言いようによっては大名屋敷の庭のようでもある。
と言って、じゃー泉はどうするの?と言われても困る。
自分好みの庭があるのはあるが…。

建築と同じく庭についてもよく考えるが、
自分で納得できる「自然な庭」がなかなか思い浮かばない。
日本で造形にかかわる人間には「自然」というテーマは避けて通れない問題なんだけど、
意思が働くことによって生まれる造形と自然であることは相反する。
宗達の創作技法ような自由さを庭に取り入れることができないかと考えたりもするが、
具体的な形にすることができない。
などそんなことを考えながら無鄰菴の庭を見た。

ところで小川治兵衛に関する話題の本を紹介。
昨年亡くなった建築史家、鈴木博之さんの好著、
庭師 小川治兵衛とその時代です。