ヴェスプロⅡ 建物は楽器

2010.05.01

先日の演奏会があった東京カテドラルの残響は、7秒。
普通の音楽ホールで2秒くらいだから、
東京カテドラルの残響がいかに長いかがわかる。

かつて南フランスにあるル・トロネ修道院を訪ねた時のこと。
この修道院はロマネスクのシトー派の教会として有名。
教会はほとんどそうだけど、
石造で開口が少なく、かなり音が響く聖堂だった。
訪れていたのは僕らだけだったから、
思わず、大きな声でド、ミ、ソと音程を付けて順々に音を重ねて出してみたら、
ワーンとハモった。
何とも気持ちが良い、一人でハモれるわけだ。

それで、アーこれかと思った。
西洋音楽の和声は残響の長い石造の建物から生まれたんだと、実感できた。
Tn_1993_015_2
次に体験したのはウィーンで。
「岸辺のマリア教会」という素敵な名前の教会。
重たいドアーを開けたら、なんの楽器かは分からないけど、
分厚い音を出す笛?のような楽器の音が聞こえてきた。
Tn_dsoi_1992_260_2
しばらく楽器は何だろうと思いあぐねていたが、
もっと中に行って見たら、何とフルートの演奏だった。
若かりし頃、自分でもかじったことのある楽器だったのに、
分からなかったことに驚いた。
フルートは柔らかく、どちらかと言うと細い音。
ところが、もっと響きが強く、聖堂全体が音を出している感じだった。
Tn_dsoi_1992_257_2
建物と共鳴し、僕らが知っている楽器とは別の楽器になっていたのだ。
本来、フルートはそういうものとして西洋では生まれたのかもしれない。
あけっぴろげな日本建築では違った、細い音の楽器になっている。

ところでこの岸辺のマリア教会は外観が美しい。
Tn_dsoi_1992_253_2
ロマネスクとゴシックのはざまに出来た教会。