ロマネスクを訪ねて Ⅲ

2017.09.11

ニース、コートダジュール空港でレンタカーを借り、さー、まずはル・トロネへ。
西に向け高速道路を走り始める。
左下に世界的なリゾート地、ニース、カンヌの見るからにリッチそうな海岸や街が通り過ぎる。
だが、無視。
我々は、ロマネスクを見に行くのだ‼とばっかりに、高速道路をひた走り。
ル・トロネは建築家の間では有名な修道院建築。
何故有名かと言えば、ル・コルビュジェが彼の代表作の一つであるラツーレット修道院を設計するにあたり、参考にしたことかららしいのだが、そんなことはどうでもいい、僕にとっては違った理由があった。
フェルナンド・プイヨンという人が書いた、「粗い石」という本がある。
ル・トロネを建てた工事監督の日記という形で書かれている。
修道士でもある建築家が人間の弱さやモノと格闘し、さまざまな矛盾に責めさいなまれる。
といった精神的格闘だけでなく、技術、予算、今で言うプログラムの解決は今の私たち建築家と同じ地平にあり、身近に中世の建築を感じることができる。
建築の名著の一つ。

前回紹介したミシュランを頼りに、目指すLe Tholonet(ル・トロネ)はニースから180Kmくらい離れたところにある。
Le Tholonetに着いて、いよいよトロネを見ることができると、ワクワクしながら探すがなかなか見つからない。
村の人に、Abbaye!Abbaye!(修道院)と言って尋ねたが、指さしてくれる協会は写真で見たトロネとは似ても似つかないもの。
何処を見回しても写真で見たトロネがない!
ミシュランで来たのに、何故ない?
不安感がモウモウと立ち上がる。誰もフランス語ができないグループ。
もう一度地図を見たら、このLe Tholonetと出発したニースとの間に、Le Thoronetがある。
なんとlとrを間違ってたのだ!!!
また高速道路を出発したニース方面に引き返す。
東京から三島あたりまで引き返すことになる。

Le Thoronetに着いたのは午後、遅くだった。
ヨーロッパは日暮れは遅いと言っても、もう薄暗くなり始めた頃だった。

でもいいこともある。
おかげで観光客もほとんどいなく、静か、ひっそりとして我々が貸し切ったようなもの。

我々4人は静謐なトロネの世界に包まれた。